とある寒い日の練習でのできごと。いつものとおりゲーム中心の練習をおこないそろそろ練習も終わろうかというとき、あの男がやってくれた。

「ノータイムだぞ!」

残り時間が15秒を切った。自分たちのオフェンス。最後にシュートを決めて終わりたい。残された僅かな時間は、ボールを運んでいる途中ですでに5秒ほど経過していた。

思い描いていたプレイ

フロントコートに入ってからも何回かパスを回したが、なかなかディフェンスが振りきることができない。多少のズレはできているものの決定的なチャンスが作れないまま、残り3秒でボールはあの男の元へとわたろうとしていた。

時間切れ

キャッチと同時にしかけてすぐにシュート。まともにフェイクもできないのでタフショットになってしまうが、シュートを決めて終わるにはそれしかない。それがコート上の誰もが思い描いていたプレイだった。

予想を裏切るプレイ

しかし次の瞬間、私は自分の目を疑った。ボールを持ったあの男は残り時間が3秒を切っているにもかかわらず、ドリブルをついてディフェンスを抜いていこうとしたのだ。コート上の選手全員の予想を見事に裏切ったプレイだったが、それをやってしまったらブザーの前にシュートがうてない。

「シュート!!」

とっさに声が出る。その声を聞いたあの男は慌てて止まり、入るわけのないジャンプシュートをうつ。

ビーッ!ガコンッ。

当然のようにシュートは外れた。

「時間のこと忘れてただろ」
「直前にノータイムって言ったのに!」

間髪入れずにつっこんでしまった。たった10数秒前に耳に入れたことがすっかり頭の中から抜け落ちてしまっていたのだ。

思考停止のプレイだった

体が動くと頭が働かなくなるタイプの人は、今回のように時間のことを忘れて(考えずに)プレイしてしまいがち。私も頭が働いていなくてミスってしまったことが何度もあるし、あの男の他にも同じようなことをやりそうな選手がチームに何人かいる。しかし、こんな言い訳をするのはあの男しかいないだろう。

「いやカウントダウンがなかったから・・」

ふつうは誰もカウントダウンしてくれねーだろ!!

今度あの男がボールを持っているときは、タイマーより早めにカウントダウンしてみようと思う。

ある寒い日の練習の話、おしまい。